友人に"背もたれ"を使わない人がいる。文字通りイスに座る時に背中を背もたれにつけないのだ。レストランでも電車でも……。その方が、むしろ楽だからと。
もともとバレエをやっていた人だから、美しい姿勢が身に付いているのだろうが、意識そのものが"きちんと"していないと、そこまで徹底はできないはず。その人といると、自分の姿勢の悪さが気になって仕方がなく、同時に思うのは、背中が丸いと"だらしなく見える"ということだった。
もうそこは理屈抜き、女は歳をとるほどに、姿勢の悪さが生き方さえだらしなく見せてしまう上に、それだけで見た目に何歳分か老けて見える。おそらく姿勢は、頬のハリやアゴのラインとつながっているのだろう。背すじがピンとしていれば、頬もピンとしてフェイスラインもスッキリ引きしまって見えること。単純に目の錯覚では片づけられない。何かの力が働いているのは確かなのだ。おそらくは"きちんと"の魔法だろう。"きちんと"はそのまま美しさや若さに変わる。背すじがのびていると、頬がリフトして見えるのも、"きちんと"のアンチエイジング効果なのである。
髪も歳を重ねるほどに、きちんと手間をかけないと、それだけで老けて見えるのと同じ。服の着方ひとつ取ってみても、スカートがウエストに合っていなくて、だからインしたブラウスがぐずぐずとしていたら、人はそれだけで老けて見える。ブラウスをきちんとインしているかどうか、たったそれだけの違いで5歳も7歳も、あるいはそれ以上に印象年齢に差が出てしまうということなのだ。
もちろん、真夏にストッキングをはきましょうとは言わない。暑苦しく見えること、それ自体が"きちんと"に反するから。夏場は見た目に涼し気に、爽やかに見えること自体が"きちんと"のアンチエイジングになるからだ。
メイクもそう。そのシーズンにふさわしい着心地のメイクをすることが、"きちんと"につながる。そういうふうに存在のすべてを"きちんと"整えていくことが、大人のアンチエイジングになること、知っておいてほしい。
姿勢の話に戻そう。背もたれを使わない友人は、当然のことながら、歩き方もすこぶる美しい。まるで体重がないように、軽やかにしなやかに歩くのだ。それも正しい姿勢が自然にもたらすもの。そう言えば、彼女はいつもにこやかで、表情がキラキラしている。不機嫌な顔を見たことがないくらい。おそらくはそれも"姿勢"のせい。背すじがピンとしていると、不思議に不機嫌な顔ができず、だから不機嫌になれないのである。
"きちんと"が体の中をめぐると、女として若く美しく見えるだけでなく、結果として人は幸せに見える。いえ、そう見えるだけじゃなく、本当に幸せになっていく。"きちんと"のアンチエイジング、今から、たった今から始めたい。
齋藤薫
Kaoru Saito
女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。新著『大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)他、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。