心も美しく

グローバル化の中における日本の美 その3

日本の美

No.8

2023.06.01 UPDATE

本当の美とは何か。 美の本質を伝える人気連載コラム。

つつましさということが美の本質的要素として組み込まれたところから日本の美は他との比較において際立った独自性を有するに至ったわけですが、美意識というものは単に芸術や食事といった個人の嗜好だけに影響を及ぼすのではなく重要な価値基準そのものであるが故に政治や経済を含めてあらゆることに深く関わることになります。特に世界が狭くなりボーダレスな時代にどんどん突き進んでいけば行くほどこの美意識の独自性が色々な意味で問われてくるということは避けられません。

一般的に人間の根本的価値として「真」「善」「美」ということが言われますが、「真」に関しては科学や学問の発達によってグローバルに共有されやすいということができるでしょう。また「善」に関しては宗教的理解が特に必要とされると言えるのではないかと思います。その中で「美」というものこそが最も実は理解し合うことが困難であると同時に生活全般に深い影響を与えているということは注目すべきことだと言えるでしょう。まして日本だけが特に大きな独自性を持っているということは自覚する必要があるのではないでしょうか。

たとえば今改革の必要性が叫ばれながらも 日本では江戸末期の黒船の来航や 敗戦に伴う米国の占領政策等 外的な要因がないと内部からの変革はなされないというようなことがよく言われたりします。強いリーダーシップの必要性が言われたりもするわけです。しかし日本におけるリーダーはリーダーであるが故に高い品性が求められ その結果としてつつましい人 すなわち自分の意見を述べるというよりは周囲の意見を良く聞く調整型の人がリーダーとなる傾向が大きく そもそもが変革に適さない人であることが多いといえるのではないでしょうか。他国の真似をしてそこに追いつこうとするというような他に明確なモデルがあるときは調整型のリーダーが相応しいといえるでしょうが、グローバルな競争の中で先頭を立って進んで行くとなったときの脆さは現状が示すとおりだと言っても良いでしょう。

あるいは日本の今後の経済的発展を考えると戦後のホンダやソニーのようなベンチャースピリットを持った企業家が必要だと言われたりもします。しかし上にいけば行くほどつつましさが求められ 出る杭は打たれるというような風潮の中でそういう人が現れるというのはなかなか困難だとも言えるでしょう。

あるいは海外においては自らの意見や主張を明確に述べるということが必要だとはいわれるものの 国や企業を代表する人物に限って、実はそういうことを最も苦手とする人たちであるというのが実情ではないかとも思います。

今や世界の中で伍(ご)して行くことができる分野といえば内向きな技術開発や職人文化を含めたいわゆる「おたく」に関わる分野だけになってきているというのは言いすぎでしょうか。あるいは個人としての能力を有する人たちはこれからますます海外に活路を見出すことになっていくのではないかとも思います。

さてさてこう考えてくるといったい私たちは今後どうしていけば良いのかということを考えざるを得ないのですが食料の自給率が40%を切るという現状の中で江戸時代に戻って鎖国を行うわけにもいかず かといって小さいときから英語を勉強させて欧米流の考え方や意識の持ち方に学ぶということになればそれは文化の喪失にも繋がるということも考えなければならないでしょう。その処方箋を考えることは極めて困難だといわざるを得ません。

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