"きれいな母親"がいることは、子供にとっては何よりの自慢だったりするものだが、女は大人になるにつれ、母親の外見に対して複雑な想いを抱くようになってくる。
自分自身がキレイになることに夢中だと、そういう意味で母親に対して無関心になったり、逆に母親が自分よりも華やかに着飾っていたりすると、ちょっと反発したくなったりする。同じ女として張り合う気持ちが、多少なりとも出てくるということだろうか。
でももう少し歳をとると、母娘関係がまた少し変わってくる。自分の母親には、どうしても若くキレイでいてもらわないと困ると思うようになる。衰えてもらっては困ると思うようになるのだ。
こんな瞬間はないだろうか?たとえ年中会っている母親でも、急にシワが増えたと感じたり、ある日突然白髪が増え、髪の量が減ったことに気づいたり……。また、どこがどうということじゃなく、後ろ姿やふとした仕草に、何とも"歳をとったな"と思わされてしまったり…。そういう時、娘はみんなショックを受ける。もっと若い頃には、"同じ女"という感覚を持った人ですら、母親の衰えを哀しく思うはずなのだ。
言うまでもなく、女はどこかで"母親"をなぞりながら生きていくものだから。そういう意識はなくても、知らず知らず母親をなぞってしまうのが、母娘の宿命だからである。
ただ問題は、そこでどうするか? 母親の"衰え"から目をそらしてしまうのか、それとも母親の若返りに、娘として最大限の協力をするのか? それは自分自身にとっても大きな分かれ道なのである。
髪が白髪になり、少し薄くもなった母親の姿に、少なからずショックを受けたという人が、このままではいけないと養毛剤を買い、頭皮をマッサージする家庭用のレーザー機器も用意して、半ば強制的に使わせたら、2ヵ月ほどで母親の髪が増えてきたという。
言うまでもなく、それだけで女性は生き返ったように表情を輝かせ、休んでいたオシャレを始めて、ちゃんとしたメイクも、本気のスキンケアも始めて、みるみる若く美しくなる。髪が増えたための印象変化の何倍も若返ったという。すると思いがけないことに、自分の体の中でも若い細胞が一気に増えるような活力が湧きあがってきて、母親に負けないほどに、娘も若返ったというのである。
そういう意味で、母と娘は、お互いがお互いを高め合う関係にあるのだろう。もちろん、悪い影響も与え合う。だからこそ、娘は母親の衰えを放っておいてはいけないのだ。
幸い、母の時代には不可能だった多くのことが可能になっている。自分のこととして、本気で若返りを手伝ってほしい。娘としてできることを精一杯やってほしい。それがそっくり自分の美しさにもつながる。母娘美容は、そんな不思議な力を持っているのである。
齋藤薫
Kaoru Saito
女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。新著『大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)他、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。