心も美しく

【齋藤薫】推し活は、人生においてなぜ最も安定した幸せを生むと言えるのか?

Beauty Style

Vol.47

2025.07.15 UPDATE

 幸せの定義は様々あるけれど、今最も安定的な幸せを得る鍵は、ひょっとしたら”推し活“にあるのかもしれない。その証に、今や推しのない人が、「推しのある人って羨ましい」とつぶやくほど。そのくらい推し活に夢中な人はキラキラ輝いて見えるからなのだろう。

 知人にこんな人がいる。ある世界的なピアニストの追っ掛けをやっていて、コンサートには全て行く。日本国内はもちろんのこと、世界中を追っかけて回るのだ。一流企業に勤めているが、収入のほとんどはその活動に当てており、海外のコンサートにも、イレギュラーの休暇を取って出かけていく。いや、行かせてもらうために、普段から人が嫌がる仕事も率先して受け入れて、いかなる残業も厭わない。そのための努力を惜しまないのである。また独身だから、心おきなく追っ掛けに全てをかけている。見方によっては他の多くのことを犠牲にしているようにも見えるけれど、本人にそういう感慨は全く無いのだ。

 それどころか、いつも思うのは”彼女はなんと幸せそうなのだろう“ということ。いつも元気で溌剌としていて、悩みなど全くなさそう。なぜなら最大の望みは、推しのピアニストの奏でる音に包まれること。つまり願望の全てを叶えている訳で、そこまで確かな幸福感って、人生においてそうそうあることではない。

 ましてや彼女のように、推し活中心の生活をしていれば、心が暇になることがないのだろう。他に悩みなど作っている暇は無いはずだ。しかも推し活は続けるほどに、ある種の使命感までを感じるようになる。自分が支えてあげなければいけないのだと言う……。 お気に入りとか、好きと言った単純な気持ちではなく、責任感までをそこに覚えているはず。ただのファン心理と推し活の違いはそこにある。恋人であり、家族であり、チームの一員のような愛情までを感じているのだ。自分がいてあげなければ、という無償の愛。だから尚さら、心に隙間がなくなるのだろう。

 そういう感情自体がそのまま幸せに直結するのは言うまでもないけれど、例えば本当の恋愛と決定的に違うのは関係が変わらないこと。いや、自分が”ふる“ことはあっても決して”ふられない“。自分自身の気持ちが変わらない限り、その恋愛的な幸福感はずっと続くのだ。だからこそ、最も安定的な幸せ、と言えるのである。

 そこには、不安もなければ挫折もない。推し活は、むしろ自分が主役だから傷つくことがない。本人たちはひたすら推しに元気をもらっていると思いこんでいるはずだが、実は自らが元気を生んでいる。推し活自体がエネルギー源となっているのだ。そういう意味で、例えばコロナ禍。外出もできず塞ぎ気味だった日々も、推しの”資料集め“だけで常に元気が保てたはず。それこそ、力をもらっているのではなく、自らが力を生んでいる証。

 人ではなく、モノやコトが対象であっても、もちろん同じ。例えば何かのダンスにハマることで、自らどんどんエネルギーを産生できる。美肌作りにハマっている人も、集中するほどに活力が生まれ、大きな相乗効果を産んでるはず。あらゆる沼は、自家発電的に自ら力を生む行為だからこそ、凄いのである。

 そしてふと思ったのは、何かに沼れる人はきっと仕事もよくできるのだろうし、何をやっても成功するのだろうということ。沼るだけの集中力を持ってすれば、何でも叶えられるに違いないから。推しがなくてつまらない。推し活に夢中な人が、羨ましい、そう言った人には、沼れること自体が一つの能力であるときっと分かっているのだろう。オタク体質って、まさに1つの才能なのだ。

 かつてオタクと言えば、ネガティブなイメージしかなかったのに、いつの間にかそれは、ひとつの憧れとなっていた。集中力があり、持続力があり、瞬発力もある。だから1つのことを極められる。それが人生においていかに大切なことか、推し活が教えてくれたのである。そして人生に揺るぎない幸せをもたらす、最も身近なテクニックであることも。

齋藤薫

齋藤薫

Kaoru Saito

美容ジャーナリスト/エッセイスト

女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュースエキスパート』でコラムを執筆中。『大人の女よ! 清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。
読んだ人から
〝ずっと美しい人〟になる20のレッスン。
読むエイジングケア
『大人の女よ! 清潔感を纏いなさい』
(集英社文庫)
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