心も美しく

【齋藤薫】時代が、お風呂上がりのピンク肌を求めてる

Beauty Style

Vol.25

2023.06.01 UPDATE

その昔、舞踏会に集う淑女たちは、ガラスの小さな置物をバッグの中に潜ませていたという。一体なぜ? それは、ダンスに誘われたとき、ひんやり冷たい手でいたいから。

とっさにそれを手のひらでつかんで、手を冷やすためである。
それも、手の冷たさは、淑やかで嫋やかな美女の証。生温かい手じゃ逞しすぎて、気品も可憐さも感じられないと言うことから、レディの手は冷たくなければいけないという暗黙のルールが生まれていたのだ。もっといえば、この時代、上流社会には青白い病み上がりのような顔ほど美しいという妙な美意識があったのだとか。それも食べることに困らない、飽食の貴族社会ゆえのパラドックス。とても皮肉だけれど、十分に栄養が行き届いているのは、むしろ〝ハシタナイ〟という価値観があったのだ。

その時代時代、美しさの条件は微妙に変わっていく。美の本質は変わらないけれど、何をもって美しいというのか? それはやはり時代の価値観を反映したものになる。だから無いものねだりで、貴族は不健康な透明感に憧れたのである。

そういう意味からすれば、歴史上、今ほど健康美が求められている時代もないかもしれない。ほんのひと昔前まで、健康美と美貌はまったく別のカテゴリーを作っていたのが、時代の健康志向から、健康こそ美の大前提となってきた。だからこそ、スキンケアでは改めて血行促進がテーマとなり、メイクではチークがトレンドとなったりした。そして何より自然な紅潮を帯び、たっぷりの水分に満ちた、お風呂上がりのような明るく生き生きした肌が絶対の美の象徴となり始めたのだ。

そうした流れから、今改めて注目されているのが、「肌を温める」という発想。温めれば血が巡る、あらゆる巡りが良くなって、肌色が明るく、自然な血色を宿してくる。それだけじゃない、体温が1度上がると、免疫力が30%も高まると言うほど、体温を上げるのは重要なテクニック。体を温め、ヒートショックプロテインを活性させることが、そのまま生命力を高めることになる。そういう仕組みがにわかに脚光を浴びて、今や温めることが健康美の決め手という、明快な流れが出来上がっているのだ。

そういう意味からも私は43度ほどの熱めのお湯に、じっくり15分つかるという入浴法を試みている。入浴法に関しては諸説あって、ぬるめのお湯に長く入ると言うのがこれまでの定説だったけれど、少なくともヒートショックプロテインを高めるためには、この方法が良いと聞き、試してみて、「やっぱりコレ」と思った次第。入浴後もそのまま体を温め続けて、飲み物も冷たいものではなく温かいもの。あくまで体は温めて美肌にする免疫力と美肌のスイッチをオンにするのだ。肌も体も温めると心までほっこりする。そして幸せ幸福感が全身を包んでくれる。だからこそ、これはベストな美容、そう信じているのである。

齋藤薫

Kaoru Saito

美容ジャーナリスト/エッセイスト
女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。新著『大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)他、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。
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