今、都会を離れて、地方に移住したり、別荘を主たる住居にするような人が増えている。言うまでもなく、コロナ禍で始まったリモート生活を実際に体験して、これならば都会にしがみついていなくても良いのではないかとの判断をした人が、少なくないということ。コロナ禍という未曾有のアクシデントにも、いい意味での気づきを与えてくれるメリットがあったということなのだ。

仕事場において、リモート会議が当たり前になって間もなく、「ワーケーション」という考え方がにわかに注目を浴びることになった。言うまでもなく仕事（ワーク）と休暇（バケーション）を組み合わせた、全く新しい概念。ラグジュアリーなホテルやリゾートでは、オフィス機器が完備された「ビジネスセンター」がたちまち充実するなど、そのための環境は一気に整っていったが、それこそ休暇をしながら、仕事をするという意味合いも含んでいるだけに、「仕事とプライベートの区別が難しい」というネガティブな見方もあって、実際にはあまり定着しなかった。

ところが逆に、コロナ禍のピークが過ぎてから、これからの人生をゆっくりと吟味した上で、今まさに移住を決めようとする人が少なくないのである。それは、単なる思いつきや衝動的な決断ではなかったことの証だ。

考えてみると、それこそ人生を変えるほどの大きな決断。ひょっとすると今までなら、もっと躊躇していたかもしれないのに、逆にコロナのようなパラダイムシフトがあったからこそ、そこまでの英断ができたのではないかという見方がある。

皮肉なもので、思いもよらないことが起きたからこそ、「人生は一度」というエネルギーが生まれたのかもしれないのだ。

さらに言えば、これまでは「自分の人生こうあるべき」と、根拠なく決めつける傾向があった人も、何か全て白紙に戻して、人生を組み立て直すという心のゆとりができたのではないだろうか。

そもそもが、日本人は何となく〝みんなと一緒だと安心する〟という感覚を持ってしまいがちだった。だから、このコロナ禍がなかったら「みんなと同じではない」というだけの理由で、都会を離れてリモート生活に入るという選択など、頭をかすめもしなかったはずなのだ。

それが、不思議なことにコロナ禍の後、あくまでも自分はこう思う、自分はこうしたいという意思を持つことができるようになった。いやそれ以上に、自分の意思を行動に移すことができるようになった。その変化は、本当に大きいと思うのだ。

人生半ばで生き方をガラリと変える、それは大変な勇気とエネルギーがいるはず。だから人は生きていく上で、人生を一から見直すタイミングをなかなか持てないでいた。今までの惰性で、何となくの流れで、生きてしまっている人が少なくなかったはずなのだ。

つまりこれほどの大きなきっかけがなければ、今までの生き方を思い切って捨て去り、新しい生き方を選ぼうという勇気もエネルギーも生まれなかった。でも今ならばそれがすんなりできてしまう。ここへ来て、自分の中でもそういうパラダイムシフトが起きていることに気づいてほしいのだ。

実際に行動を起こすかどうかは別にして、自分だったらどういう変化を起こせるだろうと考えてみたい。今まで結局できなかった留学をしてみよう、大学に戻って何かを学びたい、ずっと躊躇していた独立に挑みたい、あるいはまた思い切って結婚したい……今は年齢をいとわずそうした決断ができる時、人生100年ならもう遅いと言う感覚はないはずだ。そういう可能性を自分の中に見出すだけでいいのだ。それだけで何か勇気が湧いてくる、そこが大切なのである。

みんなと一緒じゃなくていい。今までのルートを擦らなくてもいい。一から自分の人生を見直してみる、今をそういうチャンスだと考えてみてはどうだろう。