前回、自分の人生のシナリオをきちんと描くことによって、美しく個性を演出できる、というお話をしました。

でも実際は、自分の人生をこうしようというシナリオのある人、生きていく上で明確な目標を持っている人は、あまりいないのではないでしょうか。特に今、恵まれた環境で生きている人も多く、そうすると目標も持ちにくくなる。食べるものにも困るような時代のほうが、むしろみんな目を輝かせて生きていて、そういう意味では何が幸せなのかよくわかりませんね。

人間はそもそも、男性に生まれるか女性に生まれるか、どの時代のどの国の、どの親のもとに生まれるかといったことを、自分で選ぶことはできません。今ある自分は、天からの授かりもの。これを「命」(メイ)というのですが、この命のとらえ方こそが問題なのです。天から与えられたものを喜べず、感謝して受け入れることができずに、それに押しつぶされてしまうこと。それを「宿命」といいます。
反対にせっかく授かったものだからとそれを生かして、前向きに生きることを「立命」というんですね。そして「宿命」と「立命」のはざまでうごめいているさまを、「運命」といったりするわけです。

つまり、人間、今ある自分を感謝して受け入れ、その上で自分は何をなすべきかを考え、誠実にやっていけば、必ずや道は開かれるということです。そして道が開かれるほど、その先には大きな志、目標が見えてきて、それはそんなに難しいことではありません。 ファッションに話を戻して考えてみても、背の低い人が無理に高く見せようとしても、それはきっと美しく見えない。大切なのは、それぞれの今あるものを「最高」として、喜んで受け止めること。そうすれば、「それを生かしてこうしよう」というのもはっきり見えてきて、それが美しさの基本と思うのです。