本当の美とは何か。 美の本質を伝える人気連載コラム。
今、私たちが考えなくてはいけないことのひとつに、環境問題があります。環境問題とは、つまり人類の物質主義が招いた結果、物質的な豊かさが人の幸せにつながるという、そういう価値観に根ざした問題なのです。
では物質主義をどう変えるか、ものに変わる価値観とは何かといえば、「心」です。西洋での物質主義の始まり、哲学的にはデカルトまで遡ると、彼は「物は科学、心は宗教」といったのですが、ここに大きな間違いがあったといわざるを得ないのではないでしょうか。宗教は「心」の一部にすぎません。それなのに科学と心は相容れないものとして、ずっと考えられてきたのです。今こそそのあたりの哲学的な価値体系を、見直さなくてはいけない時期。そしてそれを構築する上での最大要素が「美」、心を豊かにする大きな要素が「美」だと思うのです。
たとえば今、日本の若い男性の消費の中では、車のローンの比重が非常に大きいけれど、そのローンを払う代わりに、映画を観たりコンサートに行ってくれたら……。経済的には衰えることなく、環境にもやさしい。心を豊かにする産業をどう振興するかということと環境問題とは、密接な関係にあるともいえるわけです。感動を呼び起こすものが美であるなら、「感動」に関わる産業をどう育てるか。価値観を変えれば、産業構造だってガラッと変わるということは、知っておくべきと思います。そして気質からいうと、日本はもっとも先にそれをやり得る国。日本的な文化、日本語が秘めた繊細な思考、日本人独特の美しい心の表現のようなものこそが、これから次世代を切り拓いていくのだと思います。