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陶芸 九谷焼 超絶細描 赤絵のモダニズム

Artist interview

掲載号 春 2023

2023.06.01 UPDATE

日本文化を普及するために、様々な伝統芸能や伝統品、
また日本文化を継承する方々を紹介してきました。

陶芸作家 見附みつけ正康まさやす

見附正康《無題》2022年、九谷焼・赤絵細描

冨宅:本日は遠く加賀市からお越しいただきありがとうございます。まず九谷焼の始まりについて教えていただけますか。

見附:1655年頃、加賀藩前田家の支藩、大聖寺藩 初代藩主前田利治公の領内の九谷村(現在の加賀市山中温泉)で、磁器の原料となる陶石が見つかり、窯を築いたのが始まりと伝わっています。

冨宅:九谷焼と言いますと、赤、青(緑)、黄、紫、紺青の色絵五彩の華やかな上絵付けをイメージされる方が多いと思いますが、見附先生が手掛けられている赤絵細描とはどのようなものですか。

見附:赤い絵の具で描くのが大きな特徴で、龍や鳳凰、仙人など中国の明朝や清の時代の影響を受けた絵と、細かい文様と合わせた絵柄が知られています。繊細な線と点で描いていくので、九谷焼の中でも精密さが重視されています。

冨宅:伝統を受け継ぐ赤絵でありながら、先生の作品は、アラベスク文様のような幾何学的な作風で、現代アートにも通じると高い評価を受けていらっしゃいます。私も10年ほど前に先生のお抹茶茶碗を拝見し、宝石のような美しさに感動したのを覚えています。

見附:ありがとうございます。今のデザインに至ったのは20代の頃に行ったヨーロッパ旅行がきっかけです。教会やモスクのドーム型の天井を彩る、鮮やかで繊細な文様に感動し、こういうものができないかと試行錯誤を重ねてたどり着きました。

冨宅:私も20代でドームを見て心を動かされました。先生の作品には、ドームが持つ崇高な美しさが感じられる気がします。ところで先生はもともと工芸の道に進もうと思われていたのですか。

見附:いえ。でも幼稚園の頃、自分から母に「お習字を習いたい」と言って書道を始めました。筆で絵を描くことも好きだったこともあり、高校2年の時、父から地元にある九谷焼技術研修所の存在を教えてもらいました。見学に行くと、毎日が美術の時間のように楽しそうだったので入所を決めました。

冨宅:親御さんは息子さんの才能を見抜いていらっしゃったのですね。

見附:私の両親は普通のサラリーマンでしたから、子供には好きなことをさせたいと思ったのかもしれません。

冨宅:赤絵はそこで学ばれたのですね。

見附:そうです。研修所では九谷焼の成形から造形、釉薬の調合まですべての行程を学び、赤絵も科目のひとつでした。講師は赤絵細描を現代に蘇らせた第一人者で、私の師匠でもある福島武山先生です。赤絵の初めての授業で見本を見せていただいた時、「きっと自分には描けないだろうな」と思いました。ところが描き始めたら思った以上にうまく描けて。小さい時から筆を持っていたので慣れていたのかもしれません。その時「これだったらずっと描いていたい」と思ったのです。

冨宅:赤絵、そして福島先生との出会いは、きっと運命だったのですね。

見附:はい。研修所卒業後も福島先生の外弟子として週2回、10年間学ばせていただきました。当時、昼間は九谷焼のお店の体験コーナーでアルバイトをして、夜、花鳥風月など先人の作品を写し、技術を学ぶという生活をしていました。

冨宅:高い技術力はそうした研さんを重ねて得られたものなのですね。具体的な制作の工程を教えていただけますか。

見附:大皿を例にしますと、まず鉛筆と薄墨でアタリ(下絵)をつけ、デザインの主な輪郭線から描き始めます。中心から外に広がっていく文様は少しずれると形が崩れてしまうので大枠から決めていくのです。そして一度焼きます。その後文様を少し描いて焼き、また描いては焼く。その行程を10回ほど繰り返します。

冨宅:そんなに何度も焼くのですか?

見附:絵を定着させて、少しずつ描き加えていくのです。焼いた後、新たに筆を入れるところは修正が効くので、途中でデザインを変えることもあります。

冨宅:制作期間はどのくらいですか?

見附:大きなお皿ですと1か月程です。焼きの工程で、窯の中にひとつだけ入れるのはもったいないので、複数の作品を同時進行で描いていくことが多いです。

冨宅:日々、妥協せず絵に向き合うのは大変なお仕事だと想像できます。

見附:妥協すると、線が太くなったり、ゆがんだり、仕上がりに大きな差が出てしまうので集中は欠かせません。とはいえ結局描くことが好きなので苦ではありませんし、肩こりもありません(笑)。

冨宅:まさに天職なのですね。とにかくデザインが凝っていらして、繊細で美しく、引き込まれます。

見附:立体感や躍動感のあるデザインになるよう工夫しています。毎回違うものを作って、見る方にびっくりしていただきたいと思っています。

折々の出会いや支援に
新たな作品で恩返し

見附正康《無題》2022年、九谷焼・赤絵細描

冨宅:制作のインスピレーションはどのようなところから得られるのですか。

見附:旅先で出会うものや、本、ジュエリー、織物、建築物、柱、家具…など、あらゆるものからです。自分が生きている時代のものから刺激を得て、今の赤絵を作りたいという気持ちがあります。そして何十年、何百年後には、今が歴史になると思うので、赤絵の技術と品を継承していきたいと思っています。

冨宅:すでに先生は多くの賞を受けられ、多くの作品が美術館に収蔵されていらっしゃいます。そうしたご経験の中でも印象に残る出来事はおありですか。

見附:2012年に金沢21世紀美術館で行われた「工芸未来派展」です。5枚の大皿を絵画のように壁に掛けるという斬新な展示をされました。また、まだ私が修行中に現代美術ギャラリーオオタファインアーツの代表・大田秀則さんが私の作品に目を留め、独立後に個展をしてくださいました。そのおかげで「工芸未来派展」や、日本・スイス国交樹立150周年の巡回展「ロジカル・エモーション―日本現代美術展」への出展につながりました。本当に私は節目節目で出会いに恵まれ、助けられてやってきていますので、感謝の思いが尽きません。

冨宅:よいご縁に恵まれるのも先生のお人柄があるからこそと、お話しをうかがっていてわかります。それにしても先生の超絶技巧の作品には、海外の方も驚かれたのではないですか?

見附:皆さんびっくりしていました。

冨宅:日本の評判も高まりますね。

見附:そうなってもらえればご支援いただいている皆様への恩返しになります。

我を忘れるような
美しいものを後世に

冨宅:先生にとっての美しさというのはどういうものでしょうか。

見附:我を忘れて見入ってしまうもの。はっとして、頭がリフレッシュするようなものでしょうか。美しいものは全世界共通だと思いますので、私も遠い目標として美しいものを残していきたいです。

冨宅:「心の栄養」ではありませんが、美しいものを見ると心が豊かになる気持ちがします。先生の作品はまさにそういう存在です。最後になりますが、今後の目標を教えていただけますか。

見附:海外の美術館での展覧会出品はあるのですが、個展の経験がありません。お世話になっているオオタファインアーツさんは、海外にもギャラリーをお持ちなので、いつの日か個展が開催出来たら嬉しいです。

冨宅:本当に素晴らしいので、ご希望が叶って、ますます多くの方が先生の作品に触れて、驚きと感動を味わえることを願っています。

<small>陶芸作家</small> <ruby>見附<rt>みつけ</rt>正康<rt>まさやす</rt></ruby>

陶芸作家 見附みつけ正康まさやす

1975年
石川県生まれ

1997年
九谷焼 技術研修所を卒業し福島武山氏に師事

主な個展 オオタファインアーツ(2007年、09年、16年、22年)

主な展示会 2012年「工芸未来派展」)(金沢21世紀美術館)2014年-15年「ロジカル・エモーション-日本現代美術展-」(スイス、ドイツ、ポーランドの美術館を巡回)2020年-22年「和巧絶佳展-令和時代の超工芸」(東京、宮崎、京都、愛知巡回)

主な受賞 「第9回パラミタ陶芸大賞展 大賞」「第39回伝統文化ポーラ賞奨励賞」等

主な所蔵先 国立工芸館、金沢21世紀美術館等
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