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着物 日本の伝統美に親しむ

Artist interview

掲載号 冬 2013 着物

2023.06.01 UPDATE

日本文化を普及するために、様々な伝統芸能や伝統品、
また日本文化を継承する方々を紹介してきました。

着物デザイナー 堀越ほりこし希実子きみこ

四季で最も自然が豊かな季節
色彩と情景を楽しむ装いを

冨宅:11月から1月は、たくさんの方にお会いする機会がありますが、この時期の着物にはどのようなものがありますでしょうか。

堀越:四季のなかでも自然が豊かな季節ですから、着物のおしゃれが一段と楽しくなる季節ですね。たとえば、流水にもみじ散らし、落ち葉の吹き寄せ模様など、秋を代表する文様も実に様々。菊や萩、桔梗、おみなえしなどの秋草模様もよく使われているように、秋冬の色彩美と情景美は、着物のモチーフとして古くから好まれてきました。ただし、季節の草花模様の場合は、花の盛りのシーズンより少し早めに身につけるという決まり事もございます。

冨宅:季節を先取りするというのも着物の楽しさのひとつですね。四季の豊かさは日本の美しさの象徴でもありますし、好きなモチーフの着物があるとまたその季節を待つ楽しみもできますね。

堀越:お洋服とは違った着物ならではの楽しみ方ですね。また、着物には洋服のような流行がないので、祖母や母の着物を代々受け継いでいけるというのも、大きな魅力だと思います。

冨宅:寒くなると、羽織ものやコートも必要になってまいりますが、選ぶ際のコツなどはありますでしょうか。

堀越:12月くらいまでなら、羽織を着てその上にストールをあしらっても素敵ですね。私の場合、羽織の代わりに十徳を着ることも多いです。羽織ですと室内では脱ぐのがマナーですが、十徳は、ふいのお客様にご挨拶するときでも失礼にならないという利点があります。

冨宅:十徳とは、よくお茶人さんがお茶を点てるときにお召しになっているものですね。着物のコーディネートがまた一段と楽しみになってまいりました。

ブロンズ色の帯が印象的な、シックな装いの堀越様。
「着物は、真夏以外いつでも着られるものを中心に探すようにしています。この万筋(まんすじ)の着物は名古屋帯でも染め帯でも合うので、カジュアルなシーンから、お歳暮のご挨拶に伺うときになどにも重宝しますね」。


帯で変化をつけるのが堀越様流センス
研ぎすますのは、着る習慣

冨宅:いよいよお正月となりますと、装いも一気に華やぐような気がいたしますね。

堀越:松竹梅、宝づくしなどの吉祥文様、正倉院御物と、日本にはおめでたいモチーフがたくさんありますので、楽しめる季節かと思います。

冨宅:こうして拝見しておりますと、堀越様の着物はどれもシックなのにとても華やか。上手に着物を揃える秘訣をぜひお聞かせください。

堀越:私の場合は、とにかく着物を着る機会が多いので、通年着られそうな柄、もしくは柄のない着物を選んで帯で変化をつけるようにしております。1枚の着物に対して、3パターンほどの帯があれば、大抵のシーンに対応いたしますね。

冨宅:帯を変えるだけで、フォーマルにもカジュアルにもなるのですね。

堀越:また、着物はトータルコーディネートで楽しむものですから、リーズナブルに揃えるということも、実はとても大切なことなんですね。

冨宅:おっしゃる通りですね。だからこそ、堀越様のような審美眼を持つことも大切。センスを磨くためには着る機会を増やしてこそですね。

堀越:本当に。日本人であるからには、やはり着物を着なくてはいけませんね。

冨宅:こうしてお話しを伺っておりますと、ますます着物に関心が湧いてまいります。本日はどうもありがとうございました。

冨宅孝子/エルビュー株式会社 代表取締役社長

秋から冬にかけて活躍する、
着物と帯と、小物たち

堀越様ご愛用の着物を実際に拝見しながら、そのデザインの美しさや堀越様のこだわりについてたくさんのお話を伺いました。手にとっていらっしゃるのは、市川團十郎家の紋である、團十郎格子があしらわれたご愛用の十徳。

お食事会やパーティへは 色艶やかなもみじで季節感を

まるで、軽やかに舞い降りる雪のような玉模様を、色づくもみじ柄の帯が盛り上げます。「この模様を、忠臣蔵の大石内蔵助の衣装からヒントを得て作ったものなんです。クリスマスはもちろん、牡丹や桜の帯を合わせれば春先も着られるコーディネートになります」。

金と銀の入り方次第で より一段と格調高い装いに

パリでもお召しになったというコーディネート。着物の色みに漂う優しさを、金や銀に彩られた深緑の帯が上品に盛り上げます。「この帯は、紫の着物にも。それが洋服にはないコーディネートの楽しさですね」と、堀越様。小さいながらも存在感のある象牙の帯留は、お知り合いの方の手作りなのだとか。コンテンポラリーなテイストが和の趣に深みを添えています。

秋冬の装いに欠かせない コートと十徳

左は、生地から特別に縫っていただいたという、よそいき用オリジナルコート。「展示会でもご好評いただきました。これだけ織りがあるとけっこう温かいものなんですよ。」右は、羽織の代わりにとご愛用の十徳。このほか、市川團十郎家の紋である、團十郎格子のコートもご愛用です。

小物も装いの一部 着る方の個性が表れます

「パーティのときはシャネルバッグやクラッチバッグも持ちますね」と堀越様。和装小物から、ファッションブランドのバッグまで、堀越様が着物に合わせてる小物は和洋を問わず。

扇子は、故・市川團十郎様がご子息である海老蔵様の襲名披露の折に描かれたもの。温かな思い出を秘めたお品には、大きな存在感が漂います。

着物、帯、小物などすべての調和によって個性を演出するのが着物スタイルの醍醐味。 シックでありながら華やかさも漂う気品ある装いこそ、まさに憧れといえるでしょう。


取材日:2013年9月25日

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堀越ほりこし希実子きみこ

東京生まれ。学習院大学仏文学科卒業、1976年に当代團十郎丈(当時海老蔵)と結婚。江戸歌舞伎を代表する名門市川宗家の妻として、母として、多忙な日々を送る。着物と触れ合う日常のなかで磨かれたセンスを生かして、京都の着物メーカーで成田屋由縁の着物ブランド「茶屋ごろも」のデザイン・監修を手がける。
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