日本文化を応援します

歌舞伎十八番 名場面に基づく、先人たちの知恵

Artist interview

掲載号 冬 2009 歌舞伎

2023.06.01 UPDATE

日本文化を普及するために、様々な伝統芸能や伝統品、
また日本文化を継承する方々を紹介してきました。

市川いちかわ團十郎だんじゅうろう

日本の伝統文化推進を応援する
TTI・エルビュー協賛のモナコ歌舞伎全容レポート

歌舞伎十八番のひとつ「鳴神」で観客を魅了
この演目は、代々の市川家の名優たちによって演じられてきたお家芸。美貌の姫の色香によって変化してゆく上人の表情に、会場の視線は釘付けになっていました。

2009年9月16日から19日の四日間、世界中の人々があこがれる珠玉のような国、モナコ公国にて初の歌舞伎公演が行われました。かねてから日本の伝統文化の推進に尽力してきたTTI・エルビューとしては、この歴史的なイベントの成功を願い、喜んで協賛させていただきました。

すでに2度のパリ公演でも大成功をおさめている、十二代目市川團十郎丈、十一代目海老蔵丈父子、そして五代目中村時蔵丈を筆頭にした豪華俳優陣によって繰り広げられる演目は、「春興鏡獅子」と「鳴神」。舞台は、1878年、パリのオペラ座もてがけた建築家、シャルル・ガルニエによって造られたモンテカルロオペラ座という、まさに夢のような取り合わせです。

そもそもこの実現にあたっては、モナコのアルベール大公と市川家との間に、かねてから交流があったことが大きく、また、大公の母、グレース妃が女優時代の1960年、ニューヨークで行われた歌舞伎公演をご覧になり、たいへんに感銘を受けたという逸話も残っています。

前日のリハーサルも本番さながらに

舞台は一変してダイナミックな荒事のシーンへ
酔いの眠りからさめて、雲の絶間姫に騙されたことを知ると、上人の怒りが爆発。いでたちも容貌もガラリと様変わりして、舞台狭しと躍動感にあふれた動きが繰り広げられます。

さてここからは、TTI・エルビューによる密着取材の模様をお届けします。まずは、前日のリハーサル。客席にはこのたびのモナコ公演関係者のほか、フランスの報道陣の姿もあります。二つの演目とも、きちんと衣裳をつけてまったくの本番さながらに、張りつめた雰囲気のなかで行われます。海老蔵丈が演じる「鏡獅子」の途中では、次の出番を待つ團十郎丈が稽古着姿で客席の真ん中に座り、真剣な視線を送っているのが印象的でした。

そして、いよいよ初日。劇場はかの有名なカジノに隣接しているのですが、開演時間が近づくにつれて、その正面階段を美しいきもの姿の人々が彩るという貴重な光景がみられ、劇場内の華やかさも徐々に最高潮に。入口でお客様をお迎えする團十郎丈夫人は、白と墨色の市松どりの地に刺繍を施した見事なお召し物で、晴れの舞台にいっそうの華を添えています。

オペラ座に花ひらく日本の至芸

上/レセプション出席のVIPたちへの手土産 
プログラムや俳優達からの記念館と一緒に、TTI・エルビューの『エレクトーレ』が手渡されました。
下/初日には、在日日本大使もお祝に駆けつけました。 
記念品を手に、にこやかな表情でレセプション会場をあとにする駐仏日本特命大使、齋藤泰雄ご夫妻。

午後6時。まずは「鏡獅子」が幕を開けます。これは、ひとりの役者が前半では優雅な小姓を、後半では勇壮な獅子の精を演じわけるというもの。久々の女形とあって、海老蔵丈はこの公演のために厳しい食事制限をしたといいますが、舞台では、その決意が見事に実らせたといえる、艶やかな舞が披露され、観客の溜息を誘うほどでした。

そして、團十郎丈、時蔵丈による「鳴神」。こちらは、日照り続きの窮状を救うために、朝廷の命をうけた美女、雲の絶間姫が、竜神を滝壺に封じ込めた鳴神上人を訪れ、色仕掛けでその結界を断ち切って雨を降らせるという物語。上人の威風堂々ぶり、姫君の妖艶さ、そして笑いを誘うようなかけあいなど、名優による緩急自在の演技は、はじめて歌舞伎に接する異国の観客の心もしっかりと引きつけて離さない凄味すら感じさせるものでした。三色の定式幕を背景に、團十郎丈が見得をきる大団円では、まさに拍手喝采。それは、度重なるカーテンコールへと続いてゆきました。 ところで、この公演では不思議なことが起こったのです。南仏コートダジュールに位置するモナコは、年間の晴天日が300日。つまりほとんど雨が降らないことで有名なのですが、この公演中は、なぜか毎日のように雨が…。しかも、初日はまさにちょうど上演中に、それまで晴れていた空が急に雨雲に覆われるというものだったので、人々は口ぐちに「『鳴神』がモナコに雨を降らせた」とささやくほど。このことは、必ずや伝説として語り継がれるに違いありません。

世界のVIPが駆けつけた初日の宴

ディナーの豪華さもモナコならでは

豪華なレセプション会場
上/オペラ座のはす向かいにあるモナコ随一のホテル『オテル・ド・パリ』内のレストラン『ルイ・キャーンズ』には、この日のための特別なしつらえが…。
右/会場の入口に掲げられた美しい席次表。それぞれのテーブルには、花の名がつけられています。豪華なレセプション会場
下/オペラ座のはす向かいにあるモナコ随一のホテル『オテル・ド・パリ』内のレストラン『ルイ・キャーンズ』には、この日のための特別なしつらえが…。
右/会場の入口に掲げられた美しい席次表。それぞれのテーブルには、花の名がつけられています。

さて、その初演のあとには、アルベール大公臨席のもと、レストラン「ルイ・キャーンズ」にてレセプションが催されました。ここはスターシェフ、アラン・デュカス氏が指揮する三ツ星レストラン。モナコ初の歌舞伎公演を祝う宴は、その最高級のフレンチと日本を代表する名店「九兵衛」、「末富」のコラボレーションというなんとも豪華な趣向です。ことのほか満足した様子でレストランを後にするVIPたちに、「エレクトーレ」のセットも入ったお土産が配られたのは、もう日付も変わろうかという時刻。はす向かいにあるオペラ座は、雨上がりの夜空を背景にさらに燦然と光を放っていました。

大好評のうちに幕をおろした歌舞伎公演の翌日には、今藤長十郎社中による長唄の会が、同じ舞台で催されました。演目は「五條橋」「吉原雀」、そして三つめの「新曲浦島」では、團十郎丈が凛とした舞を披露。歌舞伎の絢爛さとはまた一味違った、洒脱で研ぎ澄まされた芸の世界に、会場は水をうったような静けさで注目していました。

世界の富を一身に集めたようなモナコ公国。そこに集う人もまた、一級の豊かさを知り尽くした目の肥えた人々といえます。そのような場所でも、時代も国籍を超えて、新鮮な感動をもって受け止められた日本の至芸はやはり素晴らしく、誇らしいもの。TTI・エルビューはこれからも、美の追求と日本文化の一層の発展に寄与したいと思いを新たにしました。

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市川いちかわ團十郎だんじゅうろう

十二代目市川團十郎。39歳で市川團十郎を襲名。歌舞伎十八番にとどまらない分野の役柄を多彩に演じきるなど、スケールの大きさを感じさせる重厚な存在感で、歌舞伎の世界的周知に大きく貢献しているひとり。2007年に紫綬褒章受章。
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